Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “半夏生( はんげしょう )
 


夏至から数えて11日目(今年だと7月1日)
大体 梅雨明けのころのこの日を“半夏生”と呼びます。
梅雨の終わりごろで気候も不安定で多湿、
カラスビシャクという毒草が生える頃合いでもあり、
農家はこの日までに田植えを終えなければならぬとされているとか。
あと、この日にタケノコやワラビといった野草を食べてはならぬとか、
井戸には蓋をせよとか、
健康に影響の出る頃合いでもあるための、様々な注意も多い。

 「地方によっては
  ハンゲという魔物が徘徊するという言い伝えまであるそうだぞ?」

 「…そこまではちょっと。」

何と言っても陰陽師の師匠とお弟子。
物怪を信じぬ訳ではないけれど、それでも それは居なかろうと、
信仰心はともかくとし、ついつい顔を見合わせてしまったり。

 「あと、関西でタコを食べるそうですよ?」
 「よそ国のように言うかな、お前。」
 「あ…。」

そうだった、ここって京都なんだったと、
蛭魔からのご指摘へあわわと首をすくめた瀬那くんだったが、

 「まあ、俺もお前も京言葉とか使ってねぇしな。」

……悪ぅございました。
ちなみついでに、
讃岐ではうどんを食べるそうで、
福井の一部では焼きサバを食べるんだとか。

 「讃岐のは
  農作業のあとで“うどんを振る舞ったから”だからだそうだが。」

あと、カラスビシャクは薬草でもあるそうで、
いやいやそうじゃなくって、薬草は“半夏”という草で、
それによく似た毒草で、
化粧したような白い花が咲くのが“半夏生”とする説もあります。

 「薬草ってのは俺らにも関わりが浅からぬ代物なんだ、
  ちゃんと確定させとけよ。」

う…、そそ、そうですよね、重ね重ねすいません。

 「お師匠様。もーりんさんは病み上がりなんですから。」
 「それがどーした。上がって来たからにゃあ甘やかすこたねぇ。」

ううう、冷たい奴〜〜〜〜。
またネ落ちしてやろうかしら。


  ……とかいう冗談はさておいて。


関西でタコを食べるのは、
タコの足のように何本も根を張って
作物がよく育つようにという意味があるそうで。
あと、タコには
タウリンという疲労回復に効果のある成分もたくさん含まれており、
この時期に食べるというのは道理にも合っている…んですが、
平安時代の人はそこまで御存知だったのかなぁ?

 「というか、その前に京都は魚には微妙に縁が薄いんだがな。」
 「そうですよねぇ。」

敵が攻め込みにくいということが優先されているのだ、
盆地で海とも接してない封鎖的なところなのはしょうがない。
それでも頑張って日本海からはサバを持ち込んだし、
祇園祭のころに食べられるハモは、
取れた海から2、3日かけて運んで来ても
まだ生きてる生命力を尊ばれて食されたそうですね。

 「たーこ? はーも?」

今日は朝から爽やかにいいお日和。
庭先の木々にも緑が濃くなりつつあるのを望みつつ、
大人とお兄さんの会話を、
すぐの傍らでいい子いい子で聞いていた仔ギツネさん。
おややぁ?と小首を傾げたところを見ると、

 「お空にはいないのでしょうか。」
 「それを言ったら、そもキツネだって人間だって居ないのだがな。」

いや そこまで話を逆上らんでも、お師匠様。

 「空にはおらんでも、供物として捧げられてはおるだろうにな。」
 「あ、じゃあ。どういうのがそれっていうのが一致してないとか。」

何しろまだまだ幼い身だし、
天の聖宮ではお抱えの膳部により、
それはそれは巧みに手を尽くされたものが出されているのだろうから、
素材の名前までは知らないまま食べてたというものも少なくはないのかも。

  ……と、言いたいらしいセナくんなんだろなと

小さい子相手の融通も随分と利くようになった おやかま様。
うんうんと頷いて見せると、
丁度 咒幣の補充をしていて傍らにあった筆と巻紙を手にし、
少々大きめに紙面を開いて さらさらさらっと描いて見せたのが、

 「ほれ、くうよ。これがタコだ。」
 「うあ、お師匠様、お上手ですvv」

風船のような頭に口元尖らせ、
足の何本かを手の代わりにして扇を持っているような、
現代人が描きそうな、
デフォルメされた“タコ”の図ではなくて。(おい)
頭の部分がへなりと倒れたまんま、
うねうねした足の波間に引きずられている様相も
なかなにリアル、もとえ写実な図であり。

 「はややぁ〜。」

セナくんの横にちんまり座っていた小さな身を乗り出し、
潤みの強い大きな双眸を見開いて、
おやかま様の描いた作品を驚き半分、それでもじぃっと眺めやっており。
ああこれはやはり覚えはないかな、
そうですね調理されて姿の変わったものしか食べてないとか…と。
小さな坊やの頭上にて、陰陽師二人がこそこそと示し合わせておれば、

 「これ ちってゆ。おとと様が、食びさしてくぇた。」
 「ほほぉ、俺はまだご相伴に預かったことがなかったよなっ。」
 「…悪ぁるかったって。」

間がいいんだか悪いんだか、
昼下がりのお屋敷を
ひょいと訪れたばかりの黒髪の誰か様。
さっそくにも伸びて来た白い腕に搦め捕られての、
そんな話は聞いとらんぞと同意のヘッドロック、もとえ

 「…頭蓋骨固めだそうですよ、もーりんさん。」

あ、ありがとう、セナくん。
相変わらずに乱暴者のお館様から、
そんな荒業を仕掛けられ、古びてはいても丁寧に磨き込まれた板の間の上、
衣紋の色襲(かさね)がぼんやりと滲む上へ
まんまと組み敷かれてしまったおとと様だったのへ、

 「はややぁ♪ くうも、くうも ぎゅうすゆのvv」

今で言うところの“ハグ”に見えたらしいです、ご両人。

 「お…。///////」←あvv
 「気が済んだなら、もう離せ。」

そうと見えたのは
お互いに本気ではないのがありありしていたからだろか。
約一名 勘違いしている顔触れもありという、
複雑微妙な微笑ましいご挨拶はそこまでとして。
がっつり頼もしい首条を、参った参ったとさすりつつ、
蜥蜴一門の総帥殿が仰有るには、

 「だから。くうを見つけてから、一体 何を食うもんかなとだな。」

さすがは天狐ということか、はたまたお兄さんの過保護が悪かったか、
川魚も小さいのではあっと言う間に間に合わなくなり、
しかも生では食べなくなりし…というお話は
くうちゃんが登場して間もない頃にもご披露したが、

 「鳥だ兎だもやがては食うのだろうけれど、
  捕まえることが追いつかぬものは当分除外だなと思うてな。
  それで魚一辺倒だった頃に、
  仲間うちから土産にと貰うたのを試しに食わせたのだ。」

 「食わしたの、食わしたのvv」

うまうまだったけど、
獣にエビやイカタコは お腹によくないって、
他のおなかまちゃまがゆったのね、と。
寸の足らない両腕をお胸の前にて何とかからませ、
ちょこんと腕組みしての感慨深げな様子を
一丁前に装うくうちゃんだったものだから。

 「…ここに別のお部屋の秘書殿がいたら悶絶しとるかもな。」
 「またそういう判らない話を振る。」

何しろ、重心が定まってなかったものか、
胸を張ろうとしたそのまんま、
仰のけざまに引っ繰り返ってしまったというおまけ付き。
てぇんと倒れたそのまんま、

 「はややぁ。」

当然といや当然のことながら、
焦りも 照れ隠しに笑うということもせず。
ただただ驚いている様子がまた、
無邪気というか、天真爛漫だというか。

 「…まあ、そういう訳だから。」

こいつには食わせん方がよかろと、一度食わせただけなんだが、
食うならひとっ飛びして来て仕入れて来るぞと、
今にも腰を浮かせ掛かるのへ、

 「まあ、いいさ。」

京の商人を舐めては困る。
金子次第じゃああるけれど、
出来ぬことなぞありませぬと大見得切るよな
剛毅上等な輩も少なからずいるから、
タコくらいならすぐにも手に入ろうよと。
あくまでも物の例えとして終しまいとした、
半夏生とタコのお話だったのだけれど。

 “んと………。”

そうそう、そういえば。
お馬で何かを運んでた旅の人。
あのね、裏山でお馬がふうふう言って進めなくなって困っていたから、
あぎょんに たしけてってゆったらね。
いつもこーとはかぎらんぞって、お口を曲げっこしたまんま、
そいでも えいっとおんまにお手々を見して
きやいを入れてあげたのね。
そしたら、おんまの人が“おれーです”ってゆって、

 『おやかま様が書いたのと同んなじのをくりたのだけど。』

あぎょん、あんまり好きじゃないないって。
持って去らねば、今度は馬んこを食らうぞってゆって追い払っちったのね。

 『…くうちゃん、それ、
  絶対にお師匠様や葉柱さんに話しちゃダメだよ?』

 『はや? えと、うん。』

書生くんたら、どんな思い詰めたお顔をしたやら。
くうちゃん、うんと頷いて、
そのお約束はずっとずっと守っておいでなのだそうな。






  〜どさくさ・どっとはらい〜  12.07.17.


  *いやはや、夏風邪にやられておりました。
   まだちょっと、体の節々が痛いです。
   咳のしすぎで背中も軋みます。
   ぼーっとするのが暑いからか熱のせいか判りません。
   料理の味付けが妙なので、
   まだ完治じゃあないのかもですが、
   (得意技の角天ごぼう天の煎り煮が???でした)
   とりあえず、半月以上もずれてるネタですが
   こういうお話が捻り出せましたので。

   前々から あぎょんさんの弱点って
   物凄く意外なものじゃないかなって思ってたんですが、
   (ほら、三すくみではナメクジじゃないですか。)
   そいで思いついたのが……タコ。
   自分で書いといて何ですが、どう苦手なんでしょうね。
   怖いというか、気持ち悪いとか、
   巻き付いても効かないからか、海の存在だからか、
   食べ過ぎてお腹壊したことがあるのか。(おい)
   一度訊いといた方がいいと思うぞ、くうちゃんや。


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